下巻 第二段 稲田興法

下巻 第二段 稲田(いなだ)興法(こうぼう)

聖運寺蔵『親鸞聖人御絵伝』


〈 御伝鈔 意訳 〉『親鸞聖人伝絵-御伝鈔に学ぶ-』東本願寺出版部より

 親鸞さま は、越後の国を あと に して、常陸(ひたち)の国へ移り、笠間(かさま)の郡(こおり) 稲田(いなだ)の郷(ごう)というところ に 住まわれること に なりました。人里離れた山の中に 移り住んだ の ですが、坊さん で あろうと、俗人 で あろう と、そんなことに 関係なく そこへ訪ねる人は 多く、粗末な わらぶきの家に、身分の高い人 も、名もなき人々 も 続々と 集まってくるのでした。
 南無阿弥陀仏の教えを みんなのもの に、という仏の願いは、ここに ようやく 花開き、だれでも 歩める 浄土への道 は、やっと ここに 民衆の生活の中に 根をおろすこと に なりました。  このとき 親鸞さま は、
「救世(くせ)観音(かんのん)の夢の お告げ が、いま、やっと 私の生活に 現れて きましたよ」と、おおせられました。


〈 御伝鈔 原文 〉

聖人、越後の国より、常陸(ひたち)の国に越えて ● 笠間(かさま)の郡(こおり)、稲田(いなた)の郷(ごう)という所(ところ)に隠居(いんきょ)したまう ● 幽栖(ゆうせい)を占(し)むといえども ● 道俗(どうぞく) 跡(あと)をたずね ● 蓬(ほう)戸(こ)を閉(と)ずといえども ● 貴(き)賎(せん)衢(ちまた)に溢(あふ)る ● 仏法弘通(ぐずう)の本懐(ほんがい)ここに成就(じょうじゅ)し ● 衆生(しゅじょう)利益(りやく)の宿(しゅく)念(でん)、たちまちに満足す ● 此(こ)の時(とき)、聖人、仰(おお)せられて云(のたま)わく ●
「救世(くせ)菩薩の告命(ごうみょう)を受けし、往(いにしえ)の夢、既(すで)に今(いま)と(↑)符合(ふごう)せり。」●