2020年 9月号 人間は他人の死なら、どんな人の死にも驚かないが、自分の死だけには驚く虫のいい動物である。

山田風太郎 「半身棺桶」徳間書店

 早くも9月です。いつまでも続く猛暑日の中ですが 稲刈りが既に終わった田んぼを見て、やはり秋なんだなと思わされています。いつになったら涼しくなるのだろうと天気予報を見て ため息をついておりますが 秋という季節にだけは 入っては いるのです。コロナ感染者は増える一方です。コロナ情報はNHKが毎日更新していますが、富山県も徐々に増加しております。自分の居住地以上に気になるのは孫のいる鳥取市です。新たな感染者数に0が続いているのを見ては ホッとしております。ここにも今月の言葉の山田風太郎さんの指摘している”虫のいい動物”である自分の姿を見ることができます。

 人間の心理は面白いものです。「隣や前後の人と距離を置け」と言われつづけていると、スーパーなどでみかける 距離を気にしていない私 と 同年齢層 つまり後期高齢者諸氏の行動 が なぜか気になるのです。コロナはウイルスですから いるところ と、いないところ が あるはずです。いないところ ではマスクなど必要ないはずですが、なぜか マスク無しの人 を見ると その人から「うつされる」みたいな感覚になるのです。距離を取らない ご同輩 が気になるのです。蓮如上人の「人のわろきことは能(よ)く能(よ)くみゆるなり」『御一代記聞記』195条 です。ご承知のように この後には「わがみ のわろき事は、おぼえざるものなり」の語が続いていることは ご承知の通りです。

山田風太郎さん(1922~2001)は作家です。兵庫県養父市(やぶし)出身。両親とも医者である家系 に生まれますが 5歳の時 父が亡くなり、11歳の時に母が 医師で父の弟 と結婚しますが、旧制中学時代に母も亡くなり。その後 叔父の援助で旧制東京医学専門学校(東京医科大学)に進み、卒業したものの医師になることは不適当と みずからきめて作家の道に入った人です。兵役(へいえき)は肋膜炎(ろくまくえん)のため つくことがありませんでした。『忍法帳』もの の 原作者です。しかし一面で人間の死をテーマにした作品が多く見られます。その視点は幼くして両親と死別し、第二次大戦の徴兵検査で丙種(へいしゅ)合格となり列外(れつがい)の者とされたことにあるようです。パーキンソン病にかかった体験のなかで自分をみつめた「あと千回の晩飯」は高く評価されています。
 
 今月の言葉として引用しているのは『半身棺桶』徳間書店1993年 という本です。もう半分棺桶に足をつっこんでいる身 という意味でしょう。引用のことば に続いて「死ぬことはわかっている。が「いま」は死にたくないのだ、と みんな いう。その いまは 永遠のいま である。」75p とあります。 私達の 身の事実 は 死ぬ身を生きていること ですが、そのことから目をそらして見ないことにしているのでしょう。山田さんは「死ぬ のは 本人の地獄 である。死なない のは 他人の地獄 である」76p とも書いています。身の事実から目をそらして「寺に行くほどの年ではない」。と公言しているうちに お迎えが来ます。「死ななければならない」という私達の 命の事実 から目をそらしたまま 生 を
見つめようとしないで終わってしまう という 生き方 が 増え続けているのが 現在の日本社会ではないでしょうか。

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