2021年 4月号 物質上の財宝だけを追うて働くことは、われ と わが牢獄を築くことになる。

サン=テグジュペリ 

 例年より早く3月下旬からサクラが咲き始めました。3月中旬ころは全国的にコロナの感染者数が減少していました。それに ともない、およそ2カ月半に わたった緊急事態宣言が3月21日で解除されました。緊急事態宣言が解除されてから数日たって再び感染者数が増加しはじめました。大阪府と兵庫県、宮城県の増加が著しいので、新たに「まん延防止等重点措置」という措置が4月に入って実施されることになりました。いろんな自粛が求められましたが「わかっちゃいるけど やめられない」という 人間がもっている厄介なもの が感染の拡大になっているのでしょうね。

 今月の言葉は「星の王子さま」で世界的に知られているフランスの文学者サン=テグジュぺリの「人間の土地」という作品からです。サン=テグジュペリ(1900-1944)は兵役で航空隊に入り 除隊後 航空会社のパイロット(郵便飛行)になり、その後 第二次世界大戦では軍の偵察機のパイロットとなり、44年にコルシカ島から飛び立って帰還しませんでした。この本には砂漠に不時着して水を求めて灼熱の砂漠をさまよい偶然に遊牧民と出遇って助けられた民間郵便飛行機のパイロットとしての体験をもとにしています。

 「今月の言葉」として引用している一節をもう少し加えて紹介します。「物質上の財宝だけを追うて働くことは、われ と わが牢獄を築くことになる。人は そこへ孤独の自分を閉じ込める結果になる、生きるに値する何ものをも贖(あがな)うことのできない灰の銭をいだいて」(堀口大学訳「人間の土地」 新潮文庫42p)現在の世界が 日本も含めて陥っている状況がここで言い尽くされているように思えませんでしょうか。西も東も世界は「物質上の財宝だけを追うて」血眼(ちまなこ)になっています。しかし、それは「われ と わが牢獄を築くことに」なっているのだ と言われています。その 牢獄の中 とは、人間が温かい目で見守られ、暖かい言葉がかけられ、暖かい手に触れられることのない 孤独の世界 を築いただけなのでしょうか。なぜなら そこでは何よりも優先されるのは物質、つまりモノなのです。モノが多いことを豊か と思い込んでいる世界が 別の表現をすれば モノが溢れている牢獄 と言うのだ。と サン=テグジュぺリの言葉は指し示していてくれるように思えます。
 
 私達の これこそが正しい道だ という 思い込み を蓮如上人は「ただ もろもろの雑行(ぞうぎょう) 雑修(ざっしゅ) 自力 なんどいう わろき心を ふりすてて」(真宗聖典841頁 御文五-15)といわれました。そうでなければ人生は 出口のない牢屋 に自分で閉じこもることになるのでしょう。しかも その牢屋は自分で作り上げたモノなのです。信心をとる とは、この「わろき心」を振り捨てることであるということを「後生の一大事」という言葉で示してくださり、人間にとって本当に大切な このこと一つ に 目覚めよ と繰りかえし説いていてくださるのではないでしょうか。

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